新規感覚神経オルガノイドを用いて末梢神経障害の機序を解明し、新規治療戦略を提案する
末梢神経障害は、抗がん剤などの薬剤や糖尿病、HIVなどのウイルス感染、遺伝といった様々な要因によって引き起こされます。陽性症状(痛覚過敏など)と、陰性症状(感覚鈍麻など)が混在する複雑かつ慢性的な感覚異常を示し、その結果、QOL の低下や抗がん剤治療の中止につながるため、臨床上で大きな問題となっています。しかしながら、末梢神経障害の発症機序には未解明な部分が多く、発症要因に基づいた根本的な治療法は存在しません。
私たちはこのアンメットメディカルニーズを解決するために、これまで、末梢神経系を構成する脊髄後根神経節(DRG)神経細胞およびグリア細胞(シュワン細胞)の初代培養系や動物モデル、さらには患者さんの臨床検体での検証を組み合わせた検討を行ってきました。その結果、タキサン系・白金系抗がん剤やHIVによる末梢神経障害においては、シュワン細胞への直接的な作用および、それに起因したDRG神経とシュワン細胞間の相互作用の破綻が発症の引き金となり、神経炎症を引き起こすことを明らかにしました。さらに、ドラッグ・リポジショニングの視点から、シュワン細胞をターゲットとした既存薬のスクリーニングを行い、抗がん剤による末梢神経障害の治療薬候補を同定しました。
最近私たちは、末梢神経研究の推進のために、より最適化された有髄性の感覚神経3次元培養(オルガノイド)の構築に成功しました。このオルガノイドを構成する各種神経細胞群をアデノ随伴ウイルスにより蛍光識別して、これまでに明らかにされていないミクロな病的変化をリアルタイムで観察し、末梢神経障害の全容解明および新たな治療標的を探索しています。また、これらの技術を用いて得られる知見から、新規治療法の創出や既存薬のより有効な使用法の提案を目指しています。
代表論文
・Cancer Res. 2021;81(8):2207-2219. doi: 10.1158/0008-5472.CAN-20-2799. PMID: 33608316
・Neuropharmacology. 2021; 188:108514. doi: 10.1016/j.neuropharm.2021.108514. PMID: 33684416
・Brain Behav Immun. 2020; 88:325-339. doi: 10.1016/j.bbi.2020.03.027. PMID: 32229220